自己破産・同時廃止手続の基準

2020年5月15日

こちらの解説にも記載したとおり、同時廃止手続においては破産手続開始決定と同時に破産手続廃止決定がなされるため、破産管財人が選任されることはありません。
このことは、破産者の側から見ると、管財手続と比べ手続が相対的に早期に終了する場合が多いこと、手続を進めるために収める予納金の金額が低額で足りること、といったメリットが認められるということになります。

それでは、自己破産において同時廃止手続が選択されるのは、具体的にはどのような場合でしょうか。
以下では、水戸地方裁判所土浦支部の運用を想定して解説させて頂きます。

同時廃止手続については、破産法216条1項に規定があります。
「裁判所は、破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるときは、破産手続開始の決定と同時に、破産手続廃止の決定をしなければならない。」

当該規定にあるとおり、「破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるとき」には、同時廃止手続となります。

ただし、実務上、同時廃止手続が選択されるのは、①「破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認める」場合に加えて、②明らかに破産法上の免責不許可事由(破産法252条1項各号)がないと認められることも必要とされています。

① 破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めること

破産財団とは、「破産者の財産等であって、破産手続において破産管財人にその管理処分権が専属するもの」をいいます(破産法2条14項参照)。また、「破産手続の費用を支弁するのに不足する」とは、大まかにいえば、配当をすることができないことをいいます。
したがいまして、破産者の保有する財産の状況から、そもそも配当ができないことが明らかといえるような場合には、当該要件を満たすことになります。

なお、破産に至る経緯や資産状況等について疑義が認められ、破産管財人による調査が必要と考えられるような場合には、同時廃止手続は選択されず、管財手続によることになります。

* 破産者の保有する財産状況から配当等ができないことが明らかといえるか否かは、個々の財産の評価方法や自由財産拡張の見通しなどに加え、破産法上の否認権行使の可能性なども考慮の上で判断しなければならないため、専門的な判断が必要となる場合があります。詳細につきましては、弁護士にご相談頂くことをお勧めします。

② 破産法上の免責不許可事由がないと認められること

破産法上、免責不許可事由がある場合には、破産管財人による免責調査等を経たうえで、裁量免責の可否が判断されることになります。
* 破産法上の免責不許可事由については、こちらの解説をご確認ください。
* 裁量免責については、こちらの解説をご確認ください。

そのため、破産法に明記はないものの、そもそも免責不許可事由の有無について調査が必要な場合や、免責不許可事由が認められ裁量免責の可否が問題となるような場合には、破産管財人が選任される(管財手続が選択される)ことになります。

そのため、同時廃止手続が選択されるためには、明らかに破産法上の免責不許可事由がないと認められることが必要となります。

* 個人事業者の破産の場合、財産や権利関係などが複雑で必ずしも詳細が明らかでないことが多いことから、財産状況の調査・解明等のため、管財事件によることが多いとされています。

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