ハラスメントへの企業対応:パワーハラスメント(パワハラ)

2020年5月26日

〇パワーハラスメント(パワハラ)とは

パワーハラスメントとは、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、その雇用する労働者の就業環境が害されることをいいます(労働施策総合推進法30条の2第1項)。

以下の点がポイントとなります。
・「優越的な関係」
→当該事業主の業務を遂行するに当たって、当該言動を受ける労働者が当該言動の行為者とされる者に対して抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるものといいます。必ずしも上司と部下の関係だけにとどまらず、例えば職場の人間関係に基づく優位性なども含まれます。
・「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」
→社会通念に照らし、当該言動が明らかに当該事業主の業務上必要がない、又はその態様が相当でないものをいいます。
業務上の指示や注意、指導が業務上必要かつ相当な範囲で行われている限りにおいては、当該指示等によって苦痛を受けたとしてもパワハラには該当しません。
・「労働者の就業環境が害されること」
→当該言動により労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業するうえで看過できない程度の支障が生じることをいいます。
当該判断に当たっては、「平均的な労働者の感じ方」を基準とすることが適当であるとされています。

代表的なパワーハラスメントの類型としては、以下のような整理がなされています。
①身体的な攻撃(暴行・傷害)
②精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)
③人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
④過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)
⑤過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
⑥個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

〇パワハラと適切な業務指導との境界線

裁判例上は、当該行為が社会通念上許容される範囲のものか否かにより区別されています。

〇パワーハラスメント対策の必要性

ハラスメントについては、「加害者や被害者の人格・考え方に問題があるから起こる、特殊なもの」と考えている方もいらっしゃいます。
しかし、ハラスメントは、その人の人間性だけではなく、その時々の人間関係の亀裂・世代間ギャップ・誤解などからも生じる可能性があります。すなわち、ハラスメント問題は、どのような業界、業種・業態でも、人と人が関わる限りは起こり得るものということができます。

パワーハラスメントを含むハラスメントが会社や労働者に与える悪影響としては、以下のようなものが指摘されています。
・職場の雰囲気の悪化
・従業員の心身の健康の悪化
→従業員が十分に能力を発揮することが難しくなる。生産性の低下。
・優秀な人材の流出。
・企業イメージの悪化、企業の負担増  など

ハラスメント問題を直視することなく放置してしまうような組織では、やがて職場崩壊が生じ、組織の存続が危ぶまれる事態も生じうるということを明確に意識する必要があります。
ハラスメント問題を対策するためには、①会社としての各種措置・対応に加え、②労働者の1人1人がハラスメント防止のために自ら行動することができるような企業体質にする必要があります。

〇会社に求められる対応

労働者施策総合推進法30条の2第1項は、事業主に対し、パワーハラスメント行為によって「その雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」と規定するとともに、同法2項において、「事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。」と規定しています。
上記各規定に基づき、同法3項では、厚生労働大臣に対し、「事業主が講ずべき措置等に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針…を定めるものとする。」としており、厚生労働省では、当該規定を受け、いわゆる『パワーハラスメント防止のための指針』を定めています。

『パワーハラスメント防止のための指針』によれば、パワーハラスメント行為に対し事業主が講ずべき「雇用管理上必要な措置」としては、以下のようなものが挙げられています。

①事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
・パワハラの内容及び方針の明確化、周知・啓発
・加害者への対処方針、対処内容の就業規則等への規定、周知・啓発

②相談等に適切に対応するための必要な体制の整備
・相談対応窓口の設置、周知
・相談窓口担当者による広範かつ適切な対応

③事後の迅速かつ適切な対応
・迅速な事実関係の調査
・調査結果に基づく適切な対応
・被害者、加害者に対する適切な措置の実施
・再発防止措置の実施

④関係者のプライバシー保護のための措置を講じること、周知

⑤相談や調査協力に対する不利益取扱いの禁止、周知・啓発

*行うことが望ましい取組
・セクシャルハラスメント等の相談窓口と一体的に、一元的に対応することのできる体制の整備
・コミュニケーションの活性化や円滑化のための取組
・職場環境の改善のための取組 など

内田法律事務所では、企業のパワハラ対応につき、具体的なアドバイスはもちろん、従業員に対する研修業務、外部相談窓口業務、調査委員会の外部委員など、様々なニーズに対応いたします。つくば市、土浦市をはじめ、茨城県及び近隣都県の事案に対応しておりますので、ぜひお問合せください。

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