建物賃貸借の問題③ 信頼関係の破壊

2020年5月03日

賃貸借契約の解除に関するご相談やご依頼をお受けする際、「信頼関係破壊の法理」についてご説明させて頂く機会が多くあります。

そこで、今回は「信頼関係破壊の法理」について簡単に解説させて頂きたいと思います。

 

例えば、賃借人が家賃の支払いを滞納した場合、賃貸人(大家さん)としては賃貸借契約の解除をお考えになると思います。

家賃の支払義務は、賃借人が負う賃貸借契約上の最も大切な義務の一つです。家賃の滞納は賃借人の債務不履行ということになりますので、民法上は、1回でも滞納があれば契約を解除することができそうです(民法541条)。実際に、賃貸借契約書上で「家賃を1か月分でも滞納した場合は、賃貸借契約を解除することができる」旨の記載がなされていることもあります。

 

しかし、実務においては、いわゆる「信頼関係破壊の法理」、すなわち「家賃の滞納があっても、当事者間の信頼関係を破壊しない特段の事情がある場合には、契約の解除は認められない」とする理論が確立しています。

したがって、仮に賃借人において家賃の滞納があったとしても、信頼関係破壊の法理によって契約の解除が認められない、という場合が発生し得ることになります。

 

それでは、家賃滞納の事案においては、具体的にどのような事情が認められれば、当事者間の信頼関係が破壊されたと判断されるのでしょうか。

家賃の滞納額や滞納の期間は、当事者間の信頼関係が破壊されたか否かを判断する際の要素の1つと考えられています。そのため、一般には滞納している家賃の金額が多くなったり、滞納している期間が長くなったりすると、当事者間の信頼関係が破壊されたと認定されやすくなるとはいえますが、必ずしも滞納額や滞納期間のみで解除の可否が決まるというわけではありません(信頼関係が破壊されたか否かは、滞納額や滞納期間の他にも、滞納に至った経緯や契約締結時の事情、過去の家賃支払状況、催告の有無や内容、賃借人の対応等も考慮のうえ決せられることになります。)。

そのため、はっきりと、「○か月の滞納があれば信頼関係が破壊されたと判断できる。」とは断言できません。私が確認した限りですが、過去の裁判例を見ても、例えば2か月分の滞納があった事案で契約解除を認めたものがある一方、4か月分の滞納があっても他の事情から解除を認めなかったものもあります。

 

そのうえで、あくまでも個人的な感覚にはなってしまいますが、過去の裁判例や学説などから、『再三の督促にもかかわらず賃借人が家賃を3か月滞納した場合』が、信頼関係が破壊されたとみるべきポイントではないかと考えています。

もっとも、信頼関係破壊の有無は、最終的には個々の事案ごとに判断せざるを得ません。上述しました私見につきましても、あくまでも目安の1つとしてご理解ください。

 

家賃の滞納問題でお悩みの方は、当事務所にご相談ください。

具体的な事情をお聞きした上で、契約解除の可否や明渡・賃料請求の手続等についてアドバイスさせて頂きます。

お知らせ一覧へ