自己破産・自由財産拡張の運用基準(水戸地方裁判所土浦支部の場合)

2020年5月11日

『自由財産の拡張』とは、自由財産(破産者による自由処分が許される財産)の範囲を、破産法34条3項で定められた範囲よりも拡張するという手続です。破産法の目的の1つである〈破産者の経済的更生〉の観点から認められたもので、破産法34条4項に規定があります。

すなわち、破産手続は、破産管財人にて破産者の保有する財産を換価処分し債権者に配当するという手続ですから、原則として財産の処分が必要となります。もっとも、個人破産の場合、破産者の保有する全ての財産を処分してしまうと、破産者のその後の生活が立ち行かなくなってしまい、かえって破産者の経済的更生を妨げることになってしまいます。そこで、破産者の経済的更生に必要となる一定の財産については、自己破産をしても処分しなくてよい財産(自由財産)としての保有が認められています。

どのような財産について自由財産の拡張が認められるかについて、破産法34条4項は、「裁判所は、破産手続開始の決定があった時から当該決定が確定した日以後1月を経過する日までの間、破産者の申立てにより又は職権で、決定で、破産者の生活の状況、破産手続開始の時において破産者が有していた前項各号に掲げる財産の種類及び額、破産者が収入を得る見込みその他の事情を考慮して、破産財団に属しない財産の範囲を拡張することができる。」と規定しています。
このように、破産法上は抽象的な規定になっていますので、各地の裁判所では、個別に、自由財産拡張の判断基準や運用基準を定めています。
茨城県つくば市や茨城県土浦市を管轄する水戸地方裁判所土浦支部では、基本的に東京地方裁判所が定めた換価基準に従って自由財産拡張の運用を行っていますので、以下では、東京地方裁判所の定めた運用基準についてご説明させて頂きます。

東京地裁の基準では、以下の財産について自由財産の拡張を認めることが相当とされています。

・99万円以下の現金
・残高が20万円以下の預貯金
・見込額が20万円以下の生命保険解約返戻金
・処分見込額が20万円以下の自動車
・居住用家屋の敷金債権
・電話加入権
・支給見込額の8分の1相当額が20万円以下である退職金債権
・支給見込額の8分の1相当額が20万円を超える退職金債権の8分の7相当額
・家財道具
・差押えを禁止されている動産又は債権

東京地裁では、上記各財産については自由財産拡張の裁判があったものとして扱われ、当初から換価等しないものとされていますが、水戸地方裁判所土浦支部では、原則として破産者による自由財産拡張の申立てが必要とされています。

私の経験上、水戸地方裁判所土浦支部では、基本的には上記東京地方裁判所の換価基準に従いながら、総額99万円以下の範囲内であれば、各項目の基準額(例えば預貯金や生命保険金解約返戻金の「20万円以下」など)に固執しない運用を行っているといえます。例えば、私が携わった事案でも、合計20万円を超える預貯金について、他の自由財産拡張申出額との合計が99万円以下であったこと、30万円の預貯金保有を認めるのが破産者の経済的更生にとって必要であったことなどから、最終的に自由財産の拡張が認められたことがあります。

なお、東京地方裁判所や水戸地方裁判所土浦支部では、上記基準に該当しない財産についても、破産者の経済的更生に必要であれば、破産法34条4項の規定に基づき自由財産の拡張が認められる場合があります。ただし、基準に該当しない財産について自由財産の拡張を認めてもらうことは難しく、破産者において、当該財産が破産者の経済的更生にとって必要であることを裁判所及び破産管財人に対し説得的に説明する必要があるといえます。

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