不倫相手に対する離婚慰謝料請求の可否について(最高裁平成31年2月19日判決)

2020年4月29日

平成31年2月19日、不倫相手に対する離婚慰謝料請求の可否について、最高裁で重要な判断が示されました(最高裁判所・平成29年(受)第1456号判決。以下「本件判決」といいます。)。

今回は、本件判決について説明をさせて頂きたいと思います。

 

〇本件判決の内容

本件判決の事案は、要約しますと、「Xは妻Aの不倫相手であるYに対し、YがAと不貞行為に及んだことによりXはAとの離婚をやむなくされたと主張し、不法行為に基づき離婚に伴う慰謝料等の支払を求めた」というものです。

Xの離婚慰謝料請求に対し、最高裁判所は、以下のように判示しました。

「夫婦の一方は、他方に対し、その有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことを理由としてその損害の賠償を求めることができるところ、本件は、夫婦間ではなく、夫婦の一方が、他方と不貞関係にあった第三者に対して、離婚に伴う慰謝料を請求するものである。夫婦が離婚するに至るまでの経緯は当該夫婦の諸事情に応じて一様ではないが、協議上の離婚と裁判上の離婚のいずれであっても、離婚による婚姻の解消は、本来、当該夫婦の間で決められるべき事柄である。したがって、夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は、これにより当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても、当該夫婦の他方に対し、不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして、直ちに、当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはないと解される。第三者がそのことを理由とする不法行為責任を負うのは、当該第三者が、単に夫婦の一方と不貞行為に及ぶにとどまらず、当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られるというべきである。以上によれば、夫婦の一方は、他方と不貞行為に及んだ第三者に対して、上記特段の事情がない限り、離婚に伴う慰謝料を請求することはできないものと解するのが相当である。」

 

〇本件判決の解説

本件判決により、「不倫相手に対する慰謝料請求は原則として認められなくなったのではないか?」との疑問を持つ方もいらっしゃると思いますが、最高裁判所は、あくまでも夫婦の一方から他方の不倫相手に対する離婚に伴う慰謝料請求の可否について判断したものであって、不貞を原因とする慰謝料請求までを原則否定したものではありません。

これまでも、不倫相手に対する慰謝料請求としては、①不貞行為そのものに対する慰謝料請求と、②不貞が原因で離婚に至った場合の離婚慰謝料請求があると考えられてきました(実務上は、これまでは両請求を一緒くたに請求することも多くありました。)。

最高裁判所は、判決で示しているとおり、「離婚による婚姻の解消は、本来、当該夫婦の間で決められるべき事柄である。したがって、夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は、これにより当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても、当該夫婦の他方に対し、不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして、直ちに、当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはない」との考えを前提に、不倫相手(第三者)に対する離婚慰謝料が認められるためには、「当該第三者が、単に夫婦の一方と不貞行為に及ぶにとどまらず、当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られる」としたものです。

 

それでは、不倫相手に対する離婚慰謝料請求が認められるための「特段の事情」とは、どのような事情をさすのでしょうか。

本件判決において、「当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限る」という表現がなされていることからすると、裁判所は、「特段の事情」について限定的に考えていることが伺われます。

この点につきましては、本件判決では具体的な言及はありませんでしたので、今後の裁判例の積み重ねにより明らかになっていくものと思われます。

 

以上のとおり、本件判決は、不倫相手に対する慰謝料請求の一切を否定したものではなく、離婚に伴う慰謝料を請求する場合には、「特段の事情」が認められる必要がある旨を明示したものです。

したがって、今後も、少なくとも不倫相手に対する不貞を原因とする慰謝料請求は制限されないものと理解されています。

 

当事務所では、これまで、不倫相手に対する慰謝料請求に関するご依頼・ご相談を多くお受けしてきました。不倫相手に対する慰謝料請求についてお悩みの方は、ぜひ当事務所までお問い合わせください。

お知らせ一覧へ